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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)153号 判決

一 請求原因事実中、本願発明について、出願から審決の成立にいたるまでの特許庁における手続の経緯、発明の要旨及び審決理由の要点は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。

1 ジシクロペンタジエンについて

まず、原告は、本願発明における分解油留分がジシクロペンタジエンを必須成分とする旨主張する。

しかし、当事者間に争いのない本願発明の要旨には、その原料たる分解油留分については、「軽質又は重質のナフサ、灯油又は軽油留分、重油又は原油等を用い、いわゆるスチームクラツキング、気相熱分解、サンドクラツキング等の熱分解及び接触分解等でエチレン、プロピレン、ブテン類及びブタジエン等を製造する際得られる副産物のうち、一四〇ないし二八〇度Cの沸点範囲に含まれる連続留出成分を含有する分解油留分」とあるのみであつて、それ以上成分は特定されていない。しかも、本願発明の明細書(成立に争いのない甲第三号証の一ないし五)の記載をもあわせると、右要旨中の「一四〇ないし二八〇度Cの沸点範囲に含まれる連続留出成分を含有する分解油留分」とは、沸点範囲が一四〇ないし二八〇度Cに含まれる限り、その間の任意の連続留出成分を選択してよいものであることが明らかであるところ、仮に、その範囲内において一四〇ないし一六八度Cの連続留出成分を選択すると、沸点を一七〇度Cとするジシクロペンタジエン(この点は前掲甲第三号証の一)がこれに含有されないことは当然であるから、本願発明の要旨それ自体、ジシクロペンタジエンを含有しない分解油留分をも原料とすることを予定していることになる。

もつとも、前掲甲第三号証の一によると、本願発明の明細書五頁には分解油留分の組成が示され、その中にジシクロペンタジエンが記載されているが、その前後の記載に照らすと、それは、本願発明の沸点範囲内における分解油留分の一例を選んでその組成を示したものにすぎないから、その組成表に掲げられているからといつて、直ちにそれが本願発明における分解油留分の必須成分であるとはいうことができない。そして、本願発明における原料がジシクロペンタジエンを含有することによつて、どのような技術的意義があり、また、どんな作用効果を収めるかについては、明細書上全く明らかにされていない。

したがつて、本願発明における分解油留分は、ジシクロペンタジエンの含有を必須要件とするものとはいえない。

2 インデンについて

次に、原告は、本願発明における分解油留分がインデンを必須成分とする旨主張する。

しかし、本願発明の要旨上、分解油留分の成分は特定されていないし、また、沸点を一八二・二度Cとするインデン(この点は前掲甲第三号証の一)を含有しない分解油留分をも原料としうることは、前段の場合と同様である。

ところで、原告は、その主張の根拠として、本願発明の特許請求の範囲中、インデン量調整に関する記載を指摘する。

前掲本願発明の要旨には、原料中のインデン含有量(あるいは含有率)を所定の範囲内に調整するための手段として、「一四〇ないし二八〇度Cの沸点範囲に含まれる連続留出成分を含有する分解油留分にインデン又はアルキルインデンを添加」する方法と「上記分解油留分の軽質留分を留出除去することによりインデン含有量を増加させ」る方法とが規定されている。そして、後者の「分解油留分の軽質留分を留出除去する」ことによつて重質留分が濃縮されることは、被告も認めるところであるから、少なくとも、その方法に供される分解油留分にインデンが当初から含まれていることは、当然肯定されなければならない。しかし、だからといつて、原告主張のように、他の方法に供される分解油留分もこれと同一であつて、常にインデンが含まれるとすることはできない。

なぜならば、「一四〇ないし二八〇度Cの沸点範囲に含まれる連続留出成分を含有する分解油留分」自体、インデンを含有しないものもありうることは、先に判示したとおりであるが、そのようなインデンを含有しない分解油留分が濃縮の対象とならないことは当然である以上、本願発明の要旨に「……分解油留分にインデン又はアルキルインデン類を添加し、又は、上記分解油留分の軽質留分を留出除去することによりインデン量を増加させ」とある部分は、添加の場合には分解油留分にインデン含有の有無を問わない(逆にいえば、インデンを含有しない分解油留分については、この方法に限られる。)が、濃縮の場合にはインデンを含有する分解油留分に限られると読みわけるのが条理上自然な解釈であつて、同じ「分解油留分」という表現でも、必ずしも同一内容に解する必要はないからである。

また、前掲甲第三号証の一によると、本願発明の明細書には「上記分解油の一四〇ないし二八〇度C留分中にはインデン及びアルキルインデン類の含有量は少なく、多い場合でも三重量%以下であることが一般に認められており、」との記載があり、さらに、当初からインデンを含有する分解油留分を用いた実施例1ないし3が記載されていることが認められるが、いずれも事例の説明たるにとどまり、直ちにそれが本願発明における分解油留分の必須成分を示すものとはいうことができない。そして、本願発明における原料が、調整段階においてではなく、当初からインデンを含有することによつて、どのような技術的意義があり、またどのような作用効果を収めるかについては、明細書上全く明らかにされていない。

したがつて、本願発明における分解油留分は、インデンの含有を必須要件とするものとはいえない。

3 以上のとおりであつて、本願発明に関する原告の主張はいずれも理由がないから、これに基づく取消事由の主張も失当である。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとする。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

軽質又は重質のナフサ、灯油又は軽油留分、重質油又は原油等を用い、いわゆるスチームクラツキング、気相熱分解、サンドクラツキング等の熱分解及び接触分解等でエチレン、プロピレン、ブテン類及びブタジエン等を製造する際得られる副産物のうち、一四〇ないし二八〇度Cの沸点範囲に含まれる連続留出成分を含有する分解油留分にインデン又はアルキルインデン類を添加し、又は、上記分解油留分の軽質留分を留出除去することによりインデン含有量を増加させ、インデン含有量が七、三七五ないし一六、四重量%、あるいは、インデン含有率が一五、六ないし三六、四%になるように調整したものを原料とし、三フツ化ホウ素系フリーデルクラフツ型触媒を原料に対して〇、〇一ないし五重量%用いてマイナス三〇ないしプラス四〇度の範囲内の温度で、一〇分ないし一五時間の範囲内の時間で重合した後、触媒を分解除去して水洗し、さらに、蒸発又は蒸留して未反応油及び低重合体を分離し、一四〇度C以上の超高軟化点、三〇以下の低臭素価、淡色の芳香族炭化水素樹脂を製造する方法

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